伊坂幸太郎
文庫
   確実に他人の嘘を見抜くリーダーを筆頭に、正確な体内時計の持ち主、演説の達人、天才スリという面々で組織されたギャング団が活躍する長編サスペンス。著者は、言葉を話すカカシ「優午」が殺されるという奇想天外なミステリー『オーデュボンの祈り』や、レイプという犯罪の末に誕生した主人公「春」の苦悩を爽快なタッチで描いた『重力ピエロ』など、作品ごとに個性的なキャラクターを生み出してきた伊坂幸太郎。特異な才能を持つ4人の男女が、思わぬ事態に巻きこまれていく本書は、その真骨頂ともいえる痛快クライム・ノベルだ。

   市役所で働く成瀬、喫茶店主の響野、20歳の青年久遠、シングルマザーの雪子たちの正体は銀行強盗。現金輸送車などの襲撃には「ロマンがない」とうそぶく彼らの手口は、窓口カウンターまで最小限の変装で近づき「警報装置を使わせず、金を出させて、逃げる」というシンプルなものだ。しかしある時、横浜の銀行を襲撃した彼らは、まんまと4千万円をせしめたものの、逃走中に他の車と接触事故を起こしてしまう。しかも、その車には、同じ日に現金輸送車を襲撃した別の強盗団が乗っていた。

   著者の持ち味ともいえるのは、コメディー映画のような軽妙なストーリーの中に、自閉症の子どもや、中学生のいじめといった、活劇とはそぐわないように見えるテーマを、違和感なく滑りこませている点である。社会から異端視されている者たちを、シニカルにではなく、爽やかに描いてきた著者は、本書においても「正しいことが人をいつも幸せにするとも限らない」と高らかに宣言する。どこまでも明るいギャング団の奮闘の影には、そんな著者からの深遠なるメッセージが見え隠れしている。(中島正敏)

祥伝社
2006-02-01 00:00:00
394

陽気なギャングが地球を回す (祥伝社文庫)

  • 伊坂幸太郎
  • 祥伝社
  • 394頁

レビュー
  • 銀行強盗4人組のお話.
    ですが,人を傷つけたりするなどということはありません.
    計画的に,そして美しく去っていく愉快な人たちです.

    4人それぞれが特技を持ち合わせているわけですが,
    中でも『おしゃべりな男』の個性は抜けておもしろいと思います.

    ことあるたびに彼は口を出し,仲間たちとも言い合うのですが,
    すべてが理屈っぽく,くだらなく,うるさいのですが読ませてくれます.
    そして,それらを適当に交わすしたり茶化す仲間たち.
    これらのやり取りはコメディのような雰囲気さえあります.

    シリアスな部分もあったりしますが,全体的にはユーモラス.
    テンポもいいので飽きることなく読むことができると思います.

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